Web3.0 のインフラ:Polkadotエコシステムの概要

はじめに

非同期型のブロックチェーンが技術的なトレンドになってきましたが,代表的な3つのプロジェクトであるPolkadot, COSMOS, Avalancheのうち,今回は私が最も注目しているPolkadotの概要について解説してみます.Polkadotに注目したのは昨年からですが,パラチェーンオークションが始まる直前ぐらいに余剰資金をDotに投入し,今年に入ってからはAcalaへ集中的に投資しています.現在は2段目のパラチェーンも稼働を始めて現在は11個のパラチェーンが実際にPokadot上で稼働しています.まずPokadotが目指す方向性について以下の創業者Gavin Woodの言葉を紹介しておきます.

英語原文:

 “The parachain model was created with the belief that the future of Web3 will involve many different types of blockchains working together. Just as the current version of the internet caters to different needs, blockchains need to be able to provide a variety of services. Parachains solve this.” –

Polkadot founder Gavin Wood

日本語訳:

"Web3の未来には,さまざまな種類のブロックチェーンが連携する "という信念のもと,パラチェーンモデルが生まれました.現在のインターネットがさまざまなニーズに対応しているように,ブロックチェーンもさまざまなサービスを提供できるようにする必要があります。これを解決するのがパラチェーンです." -

Pollkadot創業者ギャビン・ウッド


つまりはWeb3.0のインフラとして機能するために様々なアプリケーションに特化した複数のブロックチェーンを連携させる基礎基盤を提供するのがPolkadotです.

では次のセクションからどういったものなのか詳細部分を見ていきましょう.


Polkadotエコシステム

現状のキーポイントは以下のリストで示したような状況です.

  • 最初の11のパラチェーンが稼動しています.
  • 最初の11のパラチェーンは,2年間のリース期間中に1億2600万DOT(総供給量の11%,21億ドル相当)をロックしました.
  • 各パラチェーンは,エコシステムにユニークな機能とユースケースをもたらします.
  • 次の主要な技術的課題は、Cross-Consensus Message Format (XCM)を構築することです.

2021年12月,ポルカドットは構想から5年を経て,最初のパラチェーンのローンチにより、多段階のローンチを成功させました.パラチェーンが稼働したことで,いよいよ一般ユーザーがPolkadot上の各パラチェーン上で取引を行うことができるようになりました.


パラチェーンとは?

パラチェーンとは、Polkadotのブロックチェーン開発フレームワークであるSubstrateを使って開発された,アプリケーションごとにカスタマイズされたレイヤー1ブロックチェーンのことです.Polkadot本体のリレーチェーンはアプリケーション部分の機能を提供しておらず主にセキュリティーとガバナンス機能を提供するのでレイヤー0と呼ばれます.既存のレイヤー1と同様に,それぞれのパラチェーンは独自の経済圏,トークン発行,ガバナンスと特化したユースケースを持ちます.しかし,既存のレイヤー1とは異なり,パラチェーンは独自のセキュリティー機能などは持ちません.その代わり、Polkadotのもう一つの主要な技術要素であるRelay Chainに接続されています.


Relay Chainとは?

Relay Chainは、Polkadotの中核となるものです.すべてのバリデータを収容するレイヤー0のベースチェーンであり,パラチェーンの保護,管理,接続を担当します.リレーチェーンのガバナンスに加え,パラチェーンも主権的なガバナンスを持っています.リレーチェーンは100から250のパラチェーンをサポートすることが計画されています.パラチェーンの上限は,主にPolkadotのクロスチェーン・メッセージ・パッシング(XCMP)の拡張に関連するコストと,分散化とパフォーマンスの質を維持するために最適な10:1のバリデータ対パラチェーン比率を守ることによって決定されています.


Polkadotトークン(DOT)とは?

PolkadotのネイティブトークンであるDOTは,ガバナンスへの参加,取引手数料,ステーキングによるセキュリティ,パラチェーンスロットのボンディングに使用されるユーティリティおよびガバナンストークンです.2022年3月現在,DOTは暗号資産のVCファンドの中で最もよく保有されている資産となっています.

VCからの資金提供に加え,PolkadotのユニークなアーキテクチャとSubstrateの柔軟性の組み合わせが,Etheruemに次ぐ2番目に大きな開発者コミュニティを引き寄せています.パラチェーンが稼動し,巨額のVC資金が確保された今、開発者たちの努力の結晶を多くの人々が手にすることができるようになったのです.

それではPolkadotの最初の5つのパラチェーンについて説明していきます.


Messariレポートから引用


Acala

AcalaはPolkadotの最初のオークションで3252万DOTを調達し,記念すべき最初のパラチェーンスロットを落札しました.Acalaは,aUSDステーブルコインのエコシステムを支えるPolkadot上に構築された分散型金融ネットワークを構築します.Acalaは、aUSDを中心としたDeFi機能を提供します.

以前の記事で詳細は説明済みですので,気になる方はそちらをご覧になってください.現在はAstarのArthswapのほうが勢いがありますが,逆の見方をすればプロジェクト規模から考えてまだ過小評価されていると思います.すでにACAトークンは値上がりを始めていますが,まだまだ上昇余地はあると個人的に見ていますし.初期流動性提供のプログラムにも参加しています.


Moonbeam

MoonbeamはPolkadotの2回目のオークションで3575万DOTを調達してパラチェーンスロットを落札しました.Moonbeamは,EVM互換のクロスチェーンスマートコントラクトプラットフォームを目指すプロジェクトです.Moonbeamは,開発者が最小限のコード変更でプロジェクトを移植することを可能にし新規プロジェクトを容易に立ち上げるための環境を提供します.


イーサリアム式統一アカウント

ParityとMoonbeamが設計したフロンティアパレットを有効にすれば、どのパラチェーンでもEVMの実装を提供することができます.しかし,EVMを実装したパラチェーンでは,ユーザーがEVMとSubstrateの両アカウントの秘密鍵を持っている必要があります.Moonbeamでは統一アカウントを提供します.ユーザーは1つの秘密鍵(EVMスタイルキー)だけで,EVMとSubstrateを操作することができるようになります.統一アカウント機能により,ユーザーはMoonbeam上の既存のアカウントを使用しMetamaskウォレットを使用することができます.


XC-20アセット

MoonbeamはSubstrateベースの資産のネイティブな相互運用性を提供しながらユーザーと開発者が使い慣れたERC-20インターフェースを通じてやりとりできる新しいトークンクラスであるXC-20トークンクラスを導入しました.


ムーンビームトークン - GLMR

Moonbeamトークン(GLMR)は、ガバナンスへの参加,取引手数料(80%を燃やし,20%をオンチェーントレジャリーに割り当てる),Moonbeam Collator ノードのインセンティブ,スマートコントラクト実行のガスに使用するユーティリティおよびガバナンストークンです.

2022年3月上旬現在、MoonbeamのTVLは1億4100万ドルでまだまだエコシステムは成長しています.Moonbeamは助成金と報奨金プログラムによって新しいプロジェクトを支援する予定です.


Astar

Astar NetworkはPolkadotの第3回オークションで1033万DOTを調達しパラチェーンスロットを落札しました.Astarは,Web Assembly (WASM)とEVMをサポートするマルチチェーンのスマートコントラクトプラットフォームです.Astarは開発者がスマートコントラクトを構築するための複数のソリューションを提供しています.


クロスバーチャルマシン(X-VM)

例えばEVMコントラクトの中でSubstrateコントラクトを呼び出す機能の実装するケースなど仮想マシンは切り離され,通信に苦労しています.様々なスマートコントラクトエンジンを統一するために,AstarはCross-Virtual Machine (X-VM)を開発しています.X-VMは,スマートコントラクトが異なる仮想マシンや言語から呼び出しを実行したり,ストレージデータを読み取ったりすることを可能にします.


ZKソリューション

Astarは,ZKスケーリングソリューションの開発を進めています.近い将来,AstarはZK plonk palletを実装する予定です(plonkはユニバーサルZK Snarkと呼ばれています).


dAppステーキング

dAppステーキングはスマートコントラクトの開発者または管理者のための報酬メカニズムです.Astarのステーキング報酬は,動的な報酬モデルに基づいてアプリケーション開発者に送られます.最終的にはAstarはステーキング報酬の50%を開発者に割り当てる予定です.またAstarは,支援者から直接プロジェクトに資金を提供できるような機能の導入も予定しています.


Astarトークン - ASTR

Astarトークン(ASTR)は,ガバナンスへの参加,取引手数料,Astar Collatorノードのインセンティブ,dAppステーキング,レイヤー2アプリケーションのサポートに使用されるユーティリティおよびガバナンストークンです.


さらに、AstarはArthSwapによるPolkadot最大のTVLを有するDEXをサポートし、最近Polychainキャピタルが主導するファンディングで2200万ドルを調達しています.また2つのEthereumブリッジをすでにラウンチ済みです.2022年4月4日現在,AstarはTVLで12億ドルを突破しています.AstarはCosmosと接続し,多くの追加機能を追加する予定ですし,4月には様々なdAppが立ち上がる予定です.確かMetamaskへは対応済みでERC20の転送も可能になっているはずです.PolkadotのDeFi系dAppとして最も人気があります.


Parallel Finance

Parallel Financeは、1075万DOTを調達し,Polkadotの第4回オークションでパラチェーンスロットを落札しました(79%はParallel Auction Loan Platformを通じて調達されました).ParallelはDeFiプラットフォームを目指すパラチェーンです.


マネーマーケット

Parallelの分散型マネーマーケット・プロトコルは,貸出,借入,ステーキングの機能を提供します.ステーキングを選択したユーザーは,レバレッジステーキングに参加することができます.レバレッジ・ステーキングでは、ユーザーは貸し出しとステーキングを同時に行うことができ,2倍の利回りを得ることができます.

ではどのようにレバレッジステーキングが可能になるのでしょうか?

DOTをステークすると,流動デリバティブ・トークンxDOTを受け取ります.xDOTをパラレルにレンディングすると,現在のステーキング利回りに加え,レンディング手数料を受け取ることができます.ユーザーはさらにxDOTを担保に借入を行いレバレッジを高めることも可能です.Parallel Financeプラットフォームはアルゴリズムによって最もパフォーマンスの高いノードを選択しステーキングイールドを最大化します.


オークション・ローン・プラットフォーム

オークションローンプラットフォームはパラチェーン候補がDOTを調達するためのプラットフォームです.貢献者はParallelとパラチェーン候補の両方から特別なボーナスを受け取り,流動性ステーキングのデリバティブトークンであるcDOTを介して流動性を維持できるため,オークションローンプラットフォームを通じてDOTを貸すインセンティブがあります(2年のリース期間ロックされるDotの代わりに流動性提供可能な等価トークンを提供するのはPolkadot系Defiでは一般的みたいです).


パラレルトークン - PARA

Parallel Token (PARA) は、ガバナンスへの参加,取引手数料,Parallel Collator ノードのインセンティブ,およびセキュリティモジュールへのステイクに使用されるユーティリティおよびガバナンストークンです.

さらに、Parallelはステーブルスワップ機能を持つAMM、マルチチェーンウォレット、および多数の追加機能をリリースする予定です.2022 年 3 月初旬現在、パラレルスのオークション・ローン・プラットフォームは 5 億 5300 万ドルを調達し,市場シェアは 22%に達しています.

私はまだ投資していませんが,面白そうなプロジェクトです.流動性提供中も同時にステーキングできるというアイデアは他のDeFi例えばOSMOSISのSuperFluidステーキングにも採用されています.こうすることによって流動性提供者はスワップ手数料だけでなくステーキング報酬も同時に受け取ることが可能になります.


Clover Finance

Clover FinanceはPolkadotの第5回オークションで975万DOTを調達し,パラチェーンスロットを落札しました.Cloverは,EVM互換のクロスチェーン基盤プラットフォームで,開発者がアプリケーションを移行・拡張するためのツールを提供しています.Cloverは,以下のようなプロダクトを提供します.


ユニバーサルクロスチェーン

Cloverは,PolkadotやKusamaのSubstrateベースのチェーン,EVMチェーン,Solanaのアプリケーションと対話するための様々なウォレットの実装を備えています.ユーザーは,異なるネットワーク間を移動することなくクロスチェーン資産の送受信,ラッピング,アンラッピングが可能です(Zapperに類似しています).


Clover Wallet

Clover Walletは,PolkadotやKusamaのSubstrateチェーン,EVMチェーン,Solanaのアセットを管理,追跡,やり取りできるセルフコストディアル型のクロスチェーンウォレットです.Clover Walletは,モバイル,ブラウザのエクステンション,ウェブで利用可能です.


Clover Cross-Chain Explorer

 Clover Cross-Chain Explorerは,PolkadotとKusamaのSubstrateベースのチェーン,EVMチェーン,Solanaのマルチチェーンインデックスを提供するクロスチェーンブロックエクスプローラーです.ユーザーはブロック,トランザクション,アカウントを検索することができます(Etherscanと同様な機能をクロスチェーンで提供するようです).


クローバートークン - CLV

クローバートークン(CLV)は,ガバナンスへの参加,取引手数料,Clover Collatorノードのインセンティブ,および財務管理に使用されるユーティリティとガバナンスのためのトークンです.

さらに,クローバーはクロスチェーンブリッジ,クラウドサービスAPI,取引手数料の一定割合を開発者と共有するガス料金再分配,ガスレスエンドユーザー体験,評判の良いユーザーに割引価格を提供するIDベースの料金のリリースを予定しています.


まとめ

以上の5つのプロジェクトが第一段階のPLOを勝ち取り,昨年12月からパラチェーンに接続しているグループになります.まだ残り6個のプロジェクトもパラチェーンスロットにすでに接続していますが,それらはまた次回紹介していこうと思います.

Polkadotエコシステムは本格的に稼働し,それぞれのプロジェクトもやっとエンドユーザーへサービスを提供し始めたところです.今のところ知名度でいうとAstarが人気で,ネットワークにロックされている資産額は14億ドルとすでにかなりの資金が集まっていることがわかります.期待度は高いですし,まだこれからといった段階なので2022年に大きく飛躍することを個人的には期待しています.

また技術的に実装されていない部分も残っていて特にCross Consensus Message Format(XCM)が実装されると複数のパラチェーンを連携させる応用例が増えていくようです.そちらはまだ調査段階なので,現在は情報を集めているところです. 



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