Uniswap V3でのインパーマネントロス解説(集中レンジでのL Pの場合も含めて)
はじめに
DeFiで流動性(LP)提供を始める時必ず説明サイトなどで出てくる用語としてImpermanent Loss (IL : 変動損失)が出てきます.最初は何を意味しているのか分からないと思います.
例えばこんな説明を見かけます.
”IL(インパーマネントロス)とは,LPポジションに含まれる2つの資産(トークン)の価格の比が変わり,AMM(自動マーケットメイカー)によりリバランスされた結果、発生する損失のことです.ILは,LPに含まれる2つの資産をそれぞれ単独で保有した場合と比較した損失です.”
これだけだと何を言っているかよく分かりませんね.ここでは従来の1:1のバランスでL Pポジションを組んだ場合のILの理解と同時にUniswap V3の集中流動性の場合を説明していきます.
インパーマネントロスとは?
では最初に従来の1:1でLPポジションを組んだ場合から考えてみましょう.
例えば,3200 USDCと1.0 WETHでUniswapで1:1でポジションを組んだとします(1ETH = 3200 USDと仮定します).開始時の資産額は3200 USD + 1 WETH (3200USD) = 6400 USDとなります.
ここで1 WETHが4000 USDまで値上がりしたとしましょう.すると,このLPポジションは,0.894WETHと3576 USDCに変化しました.
この時の資産額は,0.894 X 4000 + 3576 = 7152 USDとなり,7152 USD – 6400 USD= 752 USDの利益が出ていることになります.
利益が出ているからひとまず安心です.でもここで両方をそのまま持っていた場合を考えてみましょう.その場合は,4000 USD + 3200 USD = 7200 USDになり,7200 USD – 6400 USD = 800 USDの利益になる結果になります.この場合はそのまま持っていたほうが800 USD – 752 USD = 48 USD 分のプラスの利益が出せていたことになります.逆の言い方をすれば,LP提供をしたために,48 USD分の損失が出たことになります.これがインパーマネントロスです.実際にLP提供を行っている期間には取引手数料が別途利益として手に入るので,それが48 USD分を上回ればインパーマネントロスは打ち消されることになります.もっと取引が活発ならさらなる利益が望めます.
ここで極端な投資ストラテジーとして100%HODLの場合を考えてみましょう.この場合なら3200 USDCで最初に1WETHを追加で購入し,2WETH X 4000 USD = 8000 USDの利益が出せていたことになります.こうなると8000 USD – 7152 USD = 848 USD分の利益差が出てきます.本来のインパーマネントロスとは異なりますが,これがDeFiでLPポジションを組む場合のリスクになります(機会損失と言えば良いでしょうか).
Uniswap V3の集中流動性提供ではどうなるのか?
この場合は計算式が複雑になってきます.例えば,2000 USDC から4000 USDCの間に総額で100000 USD分をWETH-USDC 流動性ペアで提供した場合を考えてみましょう.現在の市場価格は1 WETH = 3030 USDです.
この場合には計算式が複雑になるのでシュミレータツールを使って必要な量を計算していきましょう.記事執筆時点の時価で計算させると,41:59の割合で,WETH-USDCを提供すれば良いことになります.必要なのは13.5 WETH, 59166 USDCになります.もっと現実的に10000USDならその10分の1で1.35 WETH, 5917 USDCが必要になるということです.集中流動性を提供した場合はレンジ内でしか手数料収入は得られません.そしてリバランスは,価格変動によって行われますが,上限に達した場合は,全部がUSDCに変換され,それ以上は一定になり,下限に達した場合は,全てがWETHになり価格がゼロになるまでそのままです.その曲線を表したのが以下の図で,ピンク色のラインで表されたのが,集中流動性提供を行った場合のシュミレーション結果になります.ブルーのラインが50:50で保持した場合の結果で,それとの差が集中流動性提供を行った場合のインパーマネントロスになります.このグラフ上で読み取ったデータから計算すると106151.667 USD - 116077.245 USD = 9925.578USDという結果になります.もっと現実的に10000USDでLPを組んだ場合は992.6 USD分がインパーマネントロスになります.これは従来の50:50で流動性提供するよりインパーマネントリスクが増大していることが分かります.ただし,集中流動性を提供することによってその価格範囲で取引されている間は,現在なら約6.29倍取引手数料がもらうことが可能です.この価格範囲を狭めると10倍を超えることも可能です.言うなればインパーマネントロスのリスク増大の代わりにさらに多くの取引手数料による収入を得ることが可能になります.
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一概にどちらが優れているかはこの比較だけではわかりません.例えば価格レンジを週単位,月単位で調整していけば高い取引手数料を稼ぎながらインパーマネントロスのリスクも最小化できます.ただしそのポジション清算時に毎度税金計算が必要になります(キャピタルゲイン課税がない国の居住者は羨ましいですw).それが面倒な場合や利益確定とみなされるイベントが発生するのを避けたい場合は,自動化Vaultを提供するサービスも存在しています.その場合はスマートコントラクトで預け入れたトークンペアが自動的に運用されます.
また相場が設定した価格範囲内で上下して平均して横ばいであれば高い利益を得ることができます.昨年のように上昇相場が一年中継続する場合はあまり現実的ではありませんが,下落相場前など一旦レンジ相場入りした場合には有効な投資戦略でしょう.
まとめ
DeFiをやる上でのインパーマネントロスのリスクを解説しました.Uniswap V3で導入された集中流動性提供の仕組みはやや複雑なせいかweb上で日本語の説明サイトを探すのが困難で今回独自に作成してみました.ちなみに興味のある方は上記の流動性提供時の価格曲線の計算式も論文の形で発表されているので調べてみてください.計算式はやや複雑ですが,中学高校程度の数学知識があれば計算式を使って集中流動性時のポジション割合などは計算できると思います.論文をそのまま説明してもよかったかもしれませんがすでにそれらを実装したwebツールが発表されていたので,簡単にそちらを使って説明を行いました.将来的には,テクニカル分析や回帰分析を行った上での確率計算に基づいてポジション設定の自動化計算ツールを考えています.そちらは形になったら別形態で紹介しようと計画しています.ちなみに手動設定で現在試していますが,Uniswap V3 (Polygon)のWETH – USDCとMATIC – USDCの集中流動性提供のLPポジションで年率換算で約40%以上で運用できています.思わぬ形で価格が上下してくれているのでポジション設定はそれほど頻繁に行っていませんが,しばらくは手動で感触を掴んでいこうと思っています(思考実験ですね).
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