Polygon (MATIC)ネットワーク解説

 はじめに

前回の記事でも取り上げましたがイーサリアムのメインネットはその成功の代償として 現在スケーリング問題を抱えており高騰するガス代はサービス提供者とユーザー双方にとって大きな問題になっています.2021年はそういった問題を解決するために様々なレイヤー2やサイドチェーンと呼ばれるスケーリングソリューションが普及し始めた年でもありました.その中でも昨年から成長が著しいPolygon(旧Matic)の仕組みについて今回は取り上げてみようと思います.

Polygonとは?

Polygonとは,イーサリアムと互換性のあるブロックチェーンや,それらを簡単に構築し相互運用するためのフレームワークの提供を目的としたプロジェクトです.

Polygonの前身であるMaticは,2017年10月に立ち上がったプロジェクトで,イーサリアムのサイドチェーンであるPlasmaネットワークを使って,イーサリアムの性能向上を目指したのが始まりです.その後,2019年4月にCoinbase VenturesとZBS Capitalから45万ドルの出資を受けて,2020年6月にメインネットを立ち上げました.

2021年の2月に“イーサリアム互換ブロックチェーンのインターネット”を目指すとし,プロジェクト名をそれまでのMaticからPolygonに変更しました.

PolygonはPoSのMaticネットワークをサポートする他,イーサリアムと互換性のあるレイヤー2にあたるブロックチェーンネットワークを構築・接続するためのプロトコルとフレームワークを提供します.

PoSのMaticネットワークを利用した場合,ブロック承認時間は2秒未満,各サイドチェーンは1ブロックあたり最大65536トランザクションを含めることができます.このことが意味することは,取引コストを低減し10000TPS超えを実現できることです.

2021年に入りDefi, NFTの熱狂的バブルなどでイーサリアムネットワークが混雑しガス代が高騰する中,Maticはイーサリアムのサイドチェーンとしてスケーリングソリューションを提供することで注目を集め,独自トークンであるMaticの価格は大きく上昇しました.

MATICの総発行量は100億で,チームとアドバイザーに20%,ネットワーク運用に12%, Polygon財団に21.9%, エコシステムに23.3%割り当てられていて,一般ユーザーへの初期配分はあまり多くありません.MATICの主な用途はイーサリアムネットワーク上でのETHのようにPolygon上のサービスを利用するための手数料として使われることが想定されています(その他ガバナンス投票にも使われます).

Polygonの仕組み

PolygonはイーサリアムとMaticネットワークが繋がっている状態で,今後様々なレイヤー2ネットワークがサポートされる計画です.
Polygon(現状ではMaticネットワーク)上には,スマートコントラクトとしてサービスを構築できます.Maticネットワーク,イーサリアムネットワークはブリッジ機能を使うことで相互に資産の移動が可能になっています.ブリッジ自体もスマートコントラクトで実装されており,現状ではPlasmaブリッジとPoSブリッジがサポートされています(Plonky2がどういった扱いになるのかは謎です).この2つのブリッジについては開発者向けの文書に比較表があり,通常PoSブリッジが推奨されています.Plasmaブリッジに関しては高いセキュリティーが保証されますが,サポートされるトークンの種類が限定的な点に注意が必要になります.両方ともイーサリアムネットワークからMaticネットワークへ入金する処理は3分から5分で行えます(Ethereumネットワーク上での実行になるのでガス代がかかるのは現状注意が必要です).

Polygonの開発者向け情報ページより抜粋

PolygonはPlasmaサイドチェーンとMatic PoSのハイブリッドで実装されています.
Plasmaサイドチェーンの場合は以下の3つのレイヤーを介して入金処理のブリッジが機能します.
  1. イーサリアム上でPlasmaスマートコントラクトとステーキング実行
  2. Proof of Stakeレイヤー(Heimdall)
  3. ブロック生成レイヤー(Bor)

イーサリアムネットワークからPlasma上のPoSノードがチェックポイントを通過,そこからブロック生成レイヤーへ渡すイメージになります.ステーキングは上記のようにイーサリアムネットワーク上で行われるのでMATICを預け入れてステーキングを行うには注意が必要です(ここが少し分かりづらいところで,自分でMATICをステーキングする時の注意点になります).

ユーザーはイーサリアムネットワークから資産を移動することで,Maticネットワーク上のサービスを利用することができます.例えばUniswap V3はPolygonにも昨年12月にも対応したのでトークンのスワップや流動性マイニングなども必要な資産を転送すれば安いガス代で利用が可能になります.他に有名どころではレンディングサービスのAAVEなどもありますが,その他様々なDappサービスが利用可能になってきています.
今後,Polygonでは様々なレイヤー2ネットワークをサポートする計画で,ゼロ知識証明技術を使ったPlonky2も最近リリースされました.
Polygonを使って作られたブロックチェーン(Polygonチェーン)はMetamaskなどの既存のツールと互換性があり,イーサリアムを含む互換性のあるブロックチェーン間でメッセージの交換が可能です.このPolygonチェーンには独自のバリデータプールを保持しバリデーションを自分で行うスタンドアロン型チェーンとバリデータを持たずセキュリティーレイヤーを外部に依存するセキュアードチェーンの2種類があります.

Polygonのネットワーク概念図.Polygon lightpaperより抜粋.


個々のブロックチェーンは,下層からイーサリアムレイヤー,セキュリティレイヤー(外部バリデータを使う場合),Polygonネットワークレイヤー,スマートコントラクトやeWASMを実行する実行レイヤーから成り立っています.イーサリアムや他のPolygonチェーンとのやり取りは最下層のイーサリアムレイヤーで扱われます.

Polygonのモデル(TCP/IPのように階層構造になってます).Polygon lightpaperより抜粋.

実際に使ってみる

さてここまでが大体の解説ですが,実際にMetaMaskを使ってMaticネットワークの威力を実体験してみました.私が使っているマイニングプールであるEthermineは昨年からマイニング報酬の払い出しにPolygon(MaticネットワークPoS)が利用できるようになっています.主な利点としては,最低払い出しが0.005 ETHから可能なことと,24時間おきにマイニングプール側が送金ガス代を負担してくれることです(つまりユーザーは無料で利用可能).昨年はひどい時にあたると0.1 ETHをイーサリアムメインネット上で引き出すのに15〜20USDかかっていたので小規模マイナーにはかなりの負担でした.
設定自体は簡単です.マイニングの払い出しに指定しているETHウォレットのアドレスをそのままMetaMask上でマイニングプールに接続し,Maticネットワークの追加をクリックするだけです.カスタムRPCの設定と承認確認のメッセージがMetaMask上に表示されるので,承認ボタンを押していくだけでOKです.
そしてマイニングプール側で0.005 ETHをすでに超えていて過去24時間払い出しが行われていなければ即払い出しが実行されるはずです.
以下に取引記録を載せておきますが,イーサリアムメインネットワーク上での支払いは0.1 ETHの送金に0.005 ETHのガス代となっています.これをドルに換算すると約15ドルかかったことが分かります.

次にMaticネットワーク上で払い出しが行われた取引記録を見てみましょう.ガス代は0.00166 MATICなので0.0025ドルとなり1セントもかかっていないことが分かります.送金は最も単純な処理なのでガス代がそれほどかかる処理ではありませんが,MATICネットワーク上で行うことによって圧倒的な低コストを実現しています.

この記事の執筆時点の2022年2月5日ではサーバーのメンテナンスのために一時的にPolygon web walletにアクセスして入金、出金できない状態になっています.ステーキングもdepositが一時停止しているので新規に開始することができませんでした.なおPolygonのMatic Network自体は機能している状態です.




おわりに

これだけガス代を安くし,かつ取引速度は数秒レベルなのでユーザーやDappサービス提供者双方にとって大きなメリットがあることが再度確認できました.私はUniswapの利用に乗り遅れた苦い経験がありますが,これだけガス代が抑えられるのであれば,流動性マイニングとトレード両方で利用してみようかなと思っています.まだまだPolygon上のサービスは普及が始まったばかりですが,これだけ利用料金(ガス代)を抑えられるのは画期的だと思いました.

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