レイヤー3が実現するフラクタルスケーリング

はじめに

ロシアとウクライナ間の緊張は収まる様子が見えず米国株式市場,暗号資産市場ともに完全に冷水をかけられた形で上昇相場へのきっかけをくじかれた状態です.数日前には,OpenSeaのユーザーがフィッシング攻撃によってハッカーにNFTを盗まれる事件が発生しており,また冬の時代到来の気配が漂っていますが,こういった時期には新しい技術開発が水面下で進んでいたりします.今回はStarkwareの開発チームが紹介していた以下の記事を元にLayer3の話題を取り上げようと思います.参考にしたのは以下のブログ記事になります.

Fractal Scaling: From L2 to L3

https://medium.com/starkware/fractal-scaling-from-l2-to-l3-7fe238ecfb4f


なぜレイヤー3なのか?

Ethereumのガスコストは一時期よりも落ち着いてきましたが,まだまだ高い状態が続いており、そのため2020年から様々なレイヤー2が立ち上がりイーサリアムのメインネットワークはそれらの決済レイヤーとして機能するようになってきました.このレイヤー2技術の普及により今年から数年間で取引コストの大幅な削減,Defiツールサポートの増加,レイヤー2で提供される流動性増加によりエンドユーザーの活動の大部分はレイヤー2で行われるようになることが予想されています.このレイヤー2の技術は短期的にイーサリアムのスケーラビリティを劇的に向上させ,次々と登場する新世代のレイヤー1との競争力を維持していく利点があります.しかし,アプリケーションによっては、新しい別のレイヤーで対応した方が良いような、特別な調整が必要な場合もあります。そのためにStarkwareはレイヤー3を提唱しています.
レイヤー3は、レイヤー2がVerifierスマートコントラクトをサポートできる限り、有効性証明を使って実現することができるようです。StarkNetのように、レイヤー2がレイヤー1に提出された有効性証明も使用する場合、レイヤー2証明の圧縮メリットとレイヤー3証明の圧縮メリットを掛け合わせた、非常にエレガントな再帰的構造を提案しています(再帰的構造の乗算効果を利用します)。つまり、各レイヤーが例えば1000倍のコスト削減を達成すれば、レイヤー3はレイヤー1の安全性を維持したまま、レイヤー1に対して100万倍のコスト削減を達成することができるということです。

StarkNetとは?; Starkwareが提供するパーミッションレスの分散型ZK-Rollupです。イーサリアム上のL2ネットワークとして動作し、イーサリアムのコンポーザビリティとセキュリティを損なうことなく、あらゆるdAppの計算を無制限に拡張することを可能にします。

レイヤー3の主なメリットは以下の通りです。
  1. ハイパースケーラビリティ:再帰的証明の乗算効果を利用。
  2. アプリ設計者による技術スタックの制御性向上。
  3. プライバシー:  ゼロ知識証明は、パブリック L2 上でプライバシーを保護するトランザクションに適用されます。
  4. より安価でシンプルなレイヤー2-レイヤー3相互運用性: 現在、レイヤー1-レイヤー2間で利用されているブリッジは、コストが高いことで知られています(本当に高いのであまり日常的に利用する用途には向いていないです).一方、レイヤー2はコスト面で優れているため、レイヤー3に適用した場合、非常に魅力的であるだけでなく、実装も容易です。レイヤー2-レイヤー3間で資産を移動する際のレイテンシーは、同じレイヤー2上に配置されたアプリケーション間よりも長くなるかもしれませんが、コストとスループットは同等にできるようです。
  5. より安価でシンプルなレイヤー3-レイヤー3相互運用性: 独立したレイヤー3は、レイヤー1ではなくレイヤー2経由で相互運用されます。レイヤー2は当然そのレイヤー1より安く利用することができます。レイヤー3がなければ、これらはすべてレイヤー2として機能し、そのため、かなり高価なレイヤー1を介して相互運用する必要があります。
  6. レイヤー3は、レイヤー2のカナリアネットワークとして機能: レイヤー2やレイヤー3で一般に公開する前に、新しい機能を試すことができます(PolkadotでKusamaが担っている役割と同様です).

レイヤー3とフラクタルレイヤー構造

レイヤー1の上にレイヤー2が構築されレイヤー3はその上に乗ることになります.さらにレイヤー3の上にレイヤー4などを構築し,フラクタル構造(自己相似構造)をもった積層ソリューションを実現することも可能なようです.ブログ記事では下図のような例が紹介されています.

Starkware ブログ記事より参照
  1. Validiumデータを利用できるStarkNet。例えば、価格に対して非常に敏感なアプリケーションによる一般的な使用。
  2. アプリケーションのパフォーマンス向上のためにカスタマイズされたアプリケーション固有のStarkNetシステム(例:特定のストレージ構造やデータ可用性の圧縮を採用)。
  3. ValidiumまたはRollupデータアベイラビリティを備えたStarkExシステム(dYdX、Sorare、Immutable、DeversiFiなど)は、StarkNetに実績のある拡張性のメリットを即座にもたらす。
  4. プライバシーStarkNetインスタンス(この例ではL4として)、パブリックStarkNetに含めずにプライバシーを保護するトランザクションを可能にする。
次の図は、以下のコンポーネントを含む古典的なレイヤー2アーキテクチャを表しています。
  1. レイヤー1上のレイヤー2ステートルートを追跡するスマートコントラクト(例えば、Ethereum上のStarkNetスマートコントラクト)。
  2. 有効性証明ベースのレイヤー2では、状態遷移の証明の有効性を検証するためのVerifierスマートコントラクト。
  3. レイヤー1上のブリッジコントラクトは、レイヤー2へのトークンの入出金を管理。
  4. レイヤー1トークン契約(ERC20、ERC721など)のカウンターパーティとして機能するレイヤー2上のトークンコントラクト。
Starkware ブログ記事より参照

下図は、レイヤー3とその下敷きとなるレイヤー2、レイヤー1との関係を示したものです。レイヤー2上に状態追跡とVerifierスマートコントラクトを実装することで、レイヤー3はレイヤー2上に安全に乗ることができると説明されています。

Starkware ブログ記事より参照

まとめ

レイヤー2はユーザーとしてスケーラビリティの向上による恩恵を実体験していますが,レイヤー3が実装されるとさらなるスケーラビリティの向上(ハイパースケーラビリティ)と同時にStarkNetによるプライバシーを実現可能なようです.またフラクタル構造で追加レイヤー(例えばレイヤー4)を拡張しさらなる技術的可能性を追求できると紹介されていました.
現在レイヤー2の一つとして運用されているStarkExは、レイヤー3へ移植される予定のようです。また、StarkNetのインスタンスもレイヤー3として提供される予定のようです。
こういった新技術の登場によってEthereumはセキュリティーと分散性を主に担当し,レイヤー2, レイヤー3でエンドユーザー向け機能を提供するのが主流になっていくのでしょう.Shardingはまだまだ実装するために時間がかかりそうですし,これからもイーサリアムのエコシステムが安定的に成長していくには必須の技術になりそうです.
面白いのはオープンソース開発の場合,他プロジェクトの影響を受けて新しいアイデアを自分たちのプロジェクトに取り入れていくことです.このレイヤー3で提案されているアイデアなどは明らかにPolkadotの影響を受けており,こういう健全な競争関係というのはエコシステムの成長に大きく貢献していきそうです.

Starkwareが提供するスタンドアローン型のZk-rollups及びValidiumを提供するサービスです.StarkExは、STARKを活用して、DeFiやゲームなどのアプリケーションでスケーラブルなセルフコストディアル取引を可能にします。StarkExは、アプリケーションを大幅に拡張し、取引速度を向上させるとともに、取引コストを削減することが可能ですStarkExは、暗号化証明を使用して、一連のトランザクション(取引や送金など)の妥当性を証明し、オンチェーン取引に対するコミットメントを更新します。StarkExを使用すると、高い流動性と低コストで規模を拡大し、分散型取引所でノンカストディアル方式取引を提供することができます。現在、StarkExは、ETH、ERC-20、ERC-721トークンをサポートしており、他のEVM対応ブロックチェーンでトークンをサポートする準備もできています。StarkExは、2020年6月からイーサリアムメインネットでデプロイされている成熟したプラットフォームでdX/dy, Immutable Xなどに採用されています.



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