Ethereumの大型アップデートThe Mergeとは

はじめに

下落相場で落胆している人たちが出だし市場は悲観モード突入ですが,こういった暗号資産の冬の時代には春に萌芽を付ける数々の技術的な開発が一気に進んだりもします.その中でも注目度からいったら今年最重要イベントといっても大げさでもないETHのThe Mergeが控えています.ここでは,The Mergeの簡単な説明をあらためて取り上げようと思います.


The Mergeとは何か?

簡単に言ってしまえば,ETHの現在のコンセンサスアルゴリズムであるPoWをPoSへ切り替えることを意味します.The Mergeと呼んでいるのは現在PoSが走っているBeacon chainとPoWのメインのETHチェーンを統合してPoSへ完全に切り替えるためです.PoWとPoSについてはここでは詳細の説明を割愛しますが,前者は,マイナーと呼ばれる計算資源を提供する人たちが必死にハッシュ値を計算しその速度を競いあいながらネットワークのセキュリティーを維持するのに対して,後者はETH保有者がバリデータになるか持ち分のETHをバリデータに委任してネットワークの新規ブロックの書き込みを投票によって決定する仕組みと思ってもらえれば良いです.

この切替には大きな意味があります.まずPoWでは大規模なGPUやASICをつかったマイニングファームによって大量の電気エネルギーを消費して取引承認(新規ブロックの承認と書き込み)を行っているためBTCほどではありませんがそのエネルギー消費量は無視できないレベルに膨れ上がっています.これがPoS方式に切り替わることで,ネットワークの取引承認やブロック書き込みにかかるエネルギーが99%削減できより低消費電力でセキュリティーを担保できます.

PoSはまたそれまでPoWマイナーに支払われていた新規ブロックのリワード報酬をステーキングを行うバリデータ(ユーザーですね)に還元を行います.つまりETH保有者はステーキングに参加することで,ネットワークのセキュリティーを守ると同時にロックアップ期間中には数%程度の年利でステーキング報酬が受け取れます.ETHのビジョンを共有し,長期保有を行うユーザーにとっては非常に嬉しい仕組みとなっています.


The Mergeはいつ行われるのか?

この質問への簡単な回答は今年の8月か9月ぐらいということです.

もっと長く回答するなら,ETH開発者のハードワークのおかげでパブリックテストネットにおけるThe Mergeが6月8日に行われ,そこで大きなトラブルがなければ2ヶ月後ぐらいにメインネットで行われます.まだブロック番号が指定されていないので日時は推定値の段階です.来月頭のパブリックテストネットでのThe Mergeが問題なく行われればそれから数週間後にはブロック番号が確定するでしょう.そこの詳細はこれからもWeekly Ethereumでフォローしていく予定です.


The MergeによってUIやUXについて変更はあるのか?

簡単に言えばありません.取引スピードも取引手数料も今回は変化しません.ユーサーが何かアクションを取る必要もありません.The Mergeによって導入されるPoSはシャーディングや他のEthereum改善案の実装に必要不可欠なものと理解してもらえれば良いでしょう.L2のさらなるスケーリングや取引手数料の削減は次のハードフォークであるShanghaiハードフォークで実装される予定です.


The Triple Halvening

"The Triple Halvening "は,"The Merge "が終了し,イーサリアムがPoSコンセンサスアルゴリズムに完全にアップグレードされると発生するETH発行量の大きな減少を表しています."The Triple Halvening "は,Bitcoinの "Halvening "をもじったものです.ビットコインは4年ごとに発行率が半減しますが,イーサリアムは”The Merge”時に発行率が約90%減少します.

これは,ビットコインの”Halvening”が3つ同時に起こるのと同じです!!!  ビットコインのネットワークで12年かかることを,イーサリアムは一瞬で発行量を減らすことを行うのです.


現在のPoWモデルではイーサリアムは1日あたりおよそ13,500ETHを発行しており,これはETH総供給量の約4.3%の年間発行量にあたります.しかしPoSの発行モデルではネットワーク上でどれだけのETHが活発にステークされているかによって決定されます.現在の予測では,”The Merge”が発生すると,発行率は0.3%から0.4%に低下すると予測されています.


ちなみに,ビットコインは現在1日あたり900BTCを発行しており,これはBTCの総供給量の約1.7%の年間発行量に相当します.今後2回の半減期によりビットコインの発行量は2024年に約0.8%,2028年に約0.4%に減少します.イーサリアムは”The Merge”後に0.3%~0.4%まで減少すると予想されておりビットコインの発行量が再びイーサリアムの範囲内に入るのは2028年以降となります.

The Triple HalveningをEIP-1559のBASE FEEバーンメカニズム(2021年8月に稼動)と組み合わせると,ユーザーの活動が活発な時期には,イーサリアムの発行量が実際にデフレになると予測されています.

これが多くの機関投資家をETHに引きつけている要因で,一般的に流通量が減ることは価格上昇につながります.現在の暗号資産は完全にベア相場ですが,ETHはThe Mergeの後に価格が上昇することが予想されています.


The Mergeのリスクはないのか?

現在の開発者会議の議論やシャドーフォークと呼ばれるメインネットワークを分岐させたコピーを使った実験では致命的なバグや技術的な課題はあらかた片付いたというのが印象です.最大のリスクファクターはDifficulty Bombのタイミングでしょう.現在の予定では来月にはこのDifficulty Bombが発動し,マイナーのPoWを行うための計算難易度が指数関数的に上昇していきます.

本来であれば,PoSへ切り替えが始まった直後にこのDifficulty Bombが発動する予定でしたが,現在のスケジュールでは2ヶ月ぐらい遅れています.この場合の問題はETHネットワークのUXとセキュリティーの一時的な低下が予想されます.ブロック生成時間がこのDifficulty Bombによる計算難易度の増加により伸びていき,そのためにUXが悪化(つまり取引がより詰まりやすくなったりネットワーク承認時間が単純に伸びていく)しかつマイナーの撤退が同時に始まる可能性があるため一時的にセキュリティーが低下する可能性があります.

一応緊急的にDifficulty Bombをずらすという措置も可能ですが,現段階ではそれを行わないという結論のようです.


PoSに切り替わってからのリスクは?

これはバリデータの多様性と分散性が保てるかということです.ETHではコンセンサスレイヤーと実行レイヤーで複数のクライアントソフトが使われています.これは一つのソフトのバグがネットワーク全体のセキュリティーに波及するのを防止するためです.PoSへ切り替わったあとはこのクライアントソフトの多様性とバリデータの分散性を保たなければなりません.この点についてはCEXであるKrakenなどの助けを借りて,複数のクライアントソフトウェアでバリデータノードを稼働させることや,ユーザーが正しい理解の上でステーキングに参加することです.流動性ステーキングが可能になるからといってLIDOにステークされるETHが集中するのは健全なエコシステムとは言えません.この部分は長い時間をかけて徐々に育まれていく部分でもあります.


まとめ

結論はETHはPoSへ今年の夏には移行を終えて,Triple Halvingが来て,資産価格が大きく上昇し,さらにステーキングによって年利数%の報酬を得られるようになるということです.

つまりはETHの未来は明るいです.ここではThe Mergeについてあらためて解説してみました.次回はShanghai Hardフォークについてどういった改善案が実装されるのかその我々ユーザーへの影響について取り上げてみようと思っています.



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