Cosmosのガバナンス投票が揉めている件について解説(CosmWasm in Rho Upgrade)

はじめに

読者からのコメントでブロックチェーンプロジェクトのオンチェーンやオフチェーンでのガバナンスがどうなっているのか質問を受けていた直後にとても面白い事例が発生しているので解説してみようと思います.これは,Cosmos Proposal #69 “Include CosmWasm in Rho Upgrade”に対しての投票についてです。 

Cosmos のガバナンスの仕組み

まず今回取り上げるCosmosにおけるオンチェーンのガバナンスの仕組みについて簡単に説明しておきます.まずオフチェーンで開発者が新しいアップデートなどに何を含めるか決定していきます.そしてそれをCosmos Proposalという形でオンチェーン上の投票にかけて実際にユーザーによるブロックチェーン上の投票が行われます(ざっくり説明しているので詳細は省いています).

ユーザーは,Keplrなどのウォレットアプリでオンチェーン上にAtomを保持していれば直接投票することが可能です.さて,株式投資などを行っている場合には,決算時の株主総会などでの経営陣からの提案事項への投票行為と思っていただければ理解し易いと思います.ユーザーはオンチェーン上で,”Yes”, “No”, “Abstain”, “No with veto”を選択できます.Abstainは“棄権”の意味で,これは株主投票でもよく見かけるものと同じ意味で投票を棄権するということです.“No with Veto”は普通は株主投票では存在しません.この場合の意味はプロポーザルを拒否し,チェーンから離れるという意思を示すことです(実際に離れるわけではありません).

さて,プロポーザルが通るには一定数のAtom保有者が賛成(”Yes”)に投票し多数派であることとその投票したAtomの量がしきい値を超える必要があります.


ハブミニマリズムとは?

COSMOSハブはインターチェーンのセキュリティーを担保するためだけに存在し,Cosmos本体には脆弱性が発生する可能性のあるスマートコントラクトの機能を含めないほうが良いという考え方です.確かにシンプルなことはセキュリティーを担保する面では非常に簡単な方法で,思想としては理解できます.またインターチェーンのハブを目指すプロジェクトであることからスマートコントラクトは,それに繋がる他のブロックチェーンに実装すれば良いというのがこのハブミニマリズム支持者の言い分です.これには一理あるのは確かですが,今では様々な競合が存在しこれでは競争力を維持できないという危機感がCosmos開発者にはあるのだと思います.そのためにCosmosハブにWASMを導入して小規模ながら基本的なスマートコントラクト機能を実装しようとしているのが今の状況です.


CosmWasmを提案している理由

では開発者がCosmWasmを提案する理由はなんでしょうか?それはまず,より多くの開発者を引き付けて開発に参加してもらうことです.最新のプログラミング言語であるRustなどはWASMに対応しており,こういうクリティカルかつ大規模なシステムにはRustプログラミングに精通した開発者を引き付けることができればエコシステムの発展に繋がります.また原理的には別のプログラミング言語でもコンパイラーを介してWASMの命令セットへ変換可能で,そういう意味では開発者の裾野を広げていく場合には有効な手段です.


Cosmos Proposal #69 Include CosmWasm in Rho upgrade

では今回揉めているCosmWasmを2Q 2022年に行うRhoアップグレードに含めるかどうかの件について見ていきましょう.

https://www.mintscan.io/cosmos/proposals/69

これは,昨年発表されたCosmosロードマップに沿うもので,次回のRhoアップグレードでCosmWasmを導入する提案です.ここでは個別のスマートコントラクトとして何を含めるかは議論されていませんが,ETHで使われている標準的なトークン規格などをサポートしたり簡単な機能変更であれば投票直後に実装なんてこともPolkadotのように可能になることが想定されています.

デメリットはやはりセキュリティーの危険性があることですが,これは他チェーンでの実装例が増えてきていることから実績は積み上がっており,それほど心配する必要はないでしょう.クライアント側の互換性問題は存在しているようで,現在はARMクライアントのみに対応していくようです.

さて提案事項は繰り返しますが,昨年発表されたロードマップにすでに示されていた機能実装に過ぎません.そのためいつも通りすんなり提案が通るものと個人的には思っていましたが,突如としてJae Kwonがコミュニティーに帰ってきたことで話がだいぶ混乱してきました.ではその経緯を見ていきましょう.


Jae Kwonが投票へNoを呼びかけ

Tendermintの創設者で元CEOであるJae Kwonは以下のリンクで議論しているようにWASMには肯定的ですが,それをCosmosハブに含めることには反対の立場でした.つまりハブミニマリズムは創設者の影響が大きいということです.

https://github.com/jaekwon/cosmos_roadmap/tree/master/shape_of_cosmos#notes-on-cosmwasm

それは今も変わっていないようで,今回のProposal #69に対して”No”を投票するようにTwitterの投稿で突然呼びかけ始めました.しかもGNO Landという新しいプロジェクトを引き連れてきて登場したわけです.

https://johnniecosmos.medium.com/gn%C3%B8-land-enabling-concurrency-parallelism-in-smart-contracts-part-1-7201cad8aa26

https://coincodecap.com/gno-land-aspires-to-be-the-best-smart-contracting-platform

詳細はここでは割愛しますが,要するにGo からフォークしたGnolangというまったく新しいスマートコントラクト記述用のプログラミング言語を開発してそれを使用して実装したのがGNO Landというプロジェクトです.個人的な印象から言えば,Goは確かに普及している言語ですが,それほど活発に新しいブロックチェーン開発には使われていないことと,Rustのほうが勢いがあり開発者的にはWASMのほうが便利そうということです.いくら技術的に優れていても開発者が集まらなければ話になりません.私はWASMのほうが将来性はあると考えています.

次にガバナンスの面から問題点を考えてみましょう.この時のツィートで興味深いのは,この投票で”No”を投じた人たちにはGNO Landトークンのエアドロップを約束すると発言したことです.

ここで何かがおかしいなと思った人はいるでしょう。そう,これは完全にエアドロップを使った賄賂であり,票を金で買う行為となんら変わりません.


なにが問題か?

私個人として危惧しているのは,こういったトークンのエアドロップ(金銭を渡すのと等価)による直接的な賄賂による票集めが横行するのではないかということです.これでは,健全な民主的投票プロセスとはいえません.これでは資金力があるグループが自分達の考え方を通すために簡単に票を直接的に買って集められることと等価だからです.もちろんハブミニマリズムという思想でそれを論点に“No”を呼びかけるのは健全な議論なので歓迎ですが,それに新規チェーンとトークンのエアドロップが絡んでくると話がきな臭くなってきます.これを問題視しないとあとで遺恨を残すと思うのですが,そこらへんはCosmosホルダーのユーザーはどう思っているのか気になっています.


まとめ

私は,ハブミニマリズムの思想は尊重しますが,今回は開発者の意見の意見に賛成なので”Yes”を投票しました.なお,Jae Kwonのツィートの影響は凄まじく,その前まではYesが優勢だったのがあっという間にNoが7割を占める事態となっています.


このままだと本当に賄賂による票の獲得によってガバナンス投票を歪めることを助長しかねない事態だと思っています.また開発チームはCosmWasmの実装のためにひたすら準備してきたわけでその努力はコミュニティーに拒否されたことを意味します.私もエンジニアなのでなんとなく彼らの気持ちが理解できるのですが,2年間プロジェクトから離れていた創業者が突如現れて自分たちのプロポーザルに横やりを入れ,さらにはエアドロップまで持ち出して票を買収して妨害されたら,だいぶ怒り心頭なのではないでしょうか.

ちなみに今回の投票が締め切られるのは5月13日になり,Jae Kwonはエアドロップを5月19日に予告しています.どういう結末にいたるのか投票を終えた私にはもう見守ることしかできませんが,今回の事件はCosmosコミュニティーに遺恨を残すことになるのではないかと思っています.


コメント

  1. こんばんは。私の疑問を取り上げていただきありがとうございます。
    WEB3の耐久性を考える中で、量子暗号通信(Arqit Quantum)とか量子コンピューティング(ionQ)とか調べていたらコメントが遅くなってしまいました。
    特に量子暗号通信は実用化がかなり近いようですね。

    個人的にポルカドットとコスモスを購入してみましたが、WEB5の概念も登場して、調べることが山積みです。
    完全自動化された株式会社のイメージでWEB3の将来に期待したいのですが、もしかしてプラットフォームの保有者が儲けるという発想自体がダメなのだろうかと思案しています。まあでも議決権には違いないし、うーん。

    返信削除
  2. いつもコメントありがとうございます。量子コンピュータですか。私もフォローしようと思ってなかなか調べられていない分野です。

    さてDAOのイメージで完全に自動化された株式会社をイメージしているかもしれませんが、現在は非常に非効率的な仕組みでこれが適用できるのは限定された組織だけだと今回思いました。
    やはりお金が絡むと色々話がややこしくなるのと民主的すぎる仕組みは結局決定が遅くなり現在のような急激な下落相場などでは致命的になる可能性が多数散見されます。いずれにせよまだまだこれからと言った印象です(法制度からも組織論としても)。
    PlasmaとCosmosはNEAR上のOctopus networkで結ばれる予定のようです。私もこの二つは競合関係というよりシナジー効果を生むとこの動きを見て確信しました。今は下落相場で大変なことになっていますが、持ち続ければ何か良いことが今後数年起こる確率は高まっているように思います。
    コスモスのエコシステムについてこれから随時更新して行きますのでお楽しみに。

    返信削除
  3. PolkadotとCosmosの間違いです訂正しておきます。

    返信削除

コメントを投稿

このブログの人気の投稿

ETHマイニング Phoenix minerの設定方法

ETHマイニング TeamRedMiner設定方法

CONBASEのレビュー