2022年の大事件 LUNA - USTの崩壊

はじめに

さて，皆さんは先週の暗号資産下落をどう捉えたでしょうか？私は，何もできずただ傍観者としてLUNAとUSTが崩壊してく様子を眺めていました．数年ぶりの大きな事件だったのは確かで今回はそのストーリーを自分の調査も兼ねて紹介したいと思います．

LUNA – USTが崩壊

LUNA-USTのメルトダウンはゆっくりと不気味に始まり，そして誰もが予想したよりも早くエスカレートしていきました．

きっかけは，5月7日（土曜日）Curveでの大規模な売りから始まりました．以前の記事でも説明したように立ち上がったばかりのCurve上の4poolに資金を移動するスキを狙われたのがキッカケになったのです．

具体的にはUST運営がCurve上の運用資金を3poolから4poolに移動させるとき攻撃者による8500万USD相当のUSTからUSDCへのスワップがあり，3poolはわずかにバランスを崩しました．Curve上のプールのバランスを戻すため，5万ETHが売られ，さらに2万ETHがBinanceに送られました．この時点で何かが起きているという噂がTwitter上に一気に飛び交いだし私も観察していました．

噂ではBlackRockとCitadelが手を組み，Geminiからまとまったビットコイン（10万BTCという噂）を借りてUSTに売り込んだという噂がすぐに流れましたが，その後3社とも反論しています．相場の値動きを見る限りではこの時点ですでに攻撃者はBTCのショートポジションで多額の利益を得ています．

Terraの設計メカニズムが脆弱だったため十分な資本と大混乱を引き起こす気概があれば，誰でも比較的単純なUST裁定取引で大儲けすることができました．暗号資産の世界でも，そのようなことを実行できる人は少ないですが，攻撃者はまだ特定されていません．

USTは5月8日（日）に0.98ドルまで下落しましたが，Kwon氏が登場すると回復の兆しを見せました．’私は起きている-面白い朝だ”と彼はツイートしていました．誰かがTerraはBitconnect詐欺を思い出させると言うと，Kwonはその数分後に反論しました．

5月9日，新しい週が始まると，暗号資産メディアはTerraの不安定な週末をドラマが終わったかのように振り返っていました．LFGは，主力商品を守るために，15億ドル（半分はビットコイン，残りの半分はUST）をマーケットメーカーに投入すると発表しました．マーケットメーカーは，取引を成立させるために必要な流動性を提供するため，金融市場において不可欠な役割を担っています．LFGは，これらのプレーヤーが15億ドルを手にし，Terraのシーソーゲームのバランスを保ってくれることを期待していましたが，時すでに遅しでした．Kwonは，USTがペグを下回っている間，”Deploying more capital-steady lads”と書きました．USTは直後に0.95ドルを割り込み，LUNAは打撃を受け始めていました．Anchor Protocolのユーザーは出口に殺到，デス・スパイラルが始まりました．そして投機家はLUNAのショートをしかけ価格は崩壊していきます．

週が明けると，状況は一段と悪化していきました．Kwon氏は 時折 ，LUNA派の人たちの神経を和らげるために顔を出し，”もうすぐ回復計画が発表される”と約束していました．”頑張れ、LUNAtics”と彼は言いました．USTとLUNAが暴落し続ける中，BinanceはUSTの引き出しを停止すると発表しました．この時点で20億ドルと噂されたVCの救済措置が失敗に終わると，LUNAは3 USDで取引される状態まで下落していました．Kwon氏はこれでも”復調”を約束し、Lunaのミンティング能力を高める計画を支持しました．つまり，LUNAのインフレ（結果的にはハイパーインフレ）と引き換えにUSTが1ドルに戻る可能性が高くなるというものです．彼は，危機への対応の遅さを広く批判されました．これからはもうLUNAは無限希釈され雪崩のようにLunaの価格は下がっていき最後には1セントを割り込みました．

VCもLUNAを防衛しようとするも失敗

初期の攻撃時にLUNAとUSTへの売り圧力が高まると同時に市場に大量のETHを供給してUSTを買い上げそれをCurveの4poolへ供給する謎のアドレスが発見されていました．

後ほど判明しましたが，これはVCのJumpが行っていたトレードで自身が保持するUSTとLUNAの価値を守るために行っていた取引のようです．大量のETHを供給したにもかかわらず，LUNAとUSTはデス・スパイラルに陥り，Jumpは多額の損失を被りました．悲劇的なのは，USTとLUNAを守るために費やした大量のETHも同時に失ったことです．

Galaxy Digitalも今回の価格崩壊で，多額の損失を被ったことが報道されています．Novogratz氏はTwitter上でまったく発言を行っておらず，相当規模の損失を2Q決算で経常すると予想されています．

ArcaもUSTとLUNAの復調にかけると言っていましたが，おそらく大量の含み損を抱えて悲惨な状況でしょう．いずれの場合も救済措置は一切約束されていません．

攻撃者はいったい何者なのか？

LUNAとUSTにデザイン上の欠陥があったことは明らかでそれをパッチワークで補強修正している最中に今回の事件は起きました．あくまで噂レベルの話では，攻撃者は10万BTCを借り入れ今回の攻撃時にはショートポジションで多額の利益を上げていたといわれています（300億ドル以上）．

https://twitter.com/OnChainWizard/status/1524123935570382851

このやり方はNew England Bankを屈服させたケースと類似しており，ソロスファンドが関与しているのではと個人的には疑っています．10万BTCの貸し手と言われたGEMINIは関与を否定しており，どこで借り入れを行ったのかはいまだに不明です．Alamedaが関与しているのではという推測も流れていますが，それも確かな証拠はありません．

LFGの準備金であったBTCも使徒不明金の存在が指摘されています．一つ言えることは8万BTCのほとんどは使い切り，現在は300BTC強しか残っていないということです．

個人的な間接的被害

私自身はLUNA－USTへは投資を行っていませんでした．それはTerra forms社のDo Kwon氏があまりにも危険人物に見えたことと，攻撃的な言動が目立っていたためです．無担保型は完璧なデザインと実装が求められますが，LUNA-USTにはそのようなステーブルコインシステムを設計する能力もありませんでしたし，実際に崩壊にいたりました．

ただ，USTはDeFiで様々なプラットフォームに入り混んでいたためそれなりの損害は被りました．まずはOSMOSISでは，USTとLUNA関連のプールが価格が崩壊したために上場廃止されるようです．それに引きづられる形にOSMOSISトークンの価格は3分の1程度に下落しました．

次にPolkadotを担保に発行していたaUSDのDotが自動精算されてしまいました．これも少額だったので気にしてはいませんが，もし本格的に資金投入していたらと思うとぞっとしました．

まとめ

結果的にはLUNAとUSTは文字通りチェーンが完全停止する状態まで追い込まれ，事実上消滅しました．まだ復旧計画を発表してなんとか存続しようとしていますが，新しいチェーンを作って逃げたとしても失われた信用回復は不可能で主要取引所はもう上場させないでしょう．Do Kwon氏の自宅近辺には不審者が出没し，警察に身辺警護を頼むまで状況が悪化しています．

米国市民かつUS在住の場合でUST-LUNAを保有していた人は多数いたと思われ，信用崩壊の規模から考えるにSECがなんらかのアクションを取るのは時間の問題でしょう．私は，Terra form社が事業を存続できるとは思えませんし，詐欺罪で集団提訴されてもおかしくない状況だと思っています．

今回の事件で分かったのは，暗号資産の世界ではToo big to failは通用しないということです．時価総額はトップ10に入っていようが信用不安が起き仕組みに問題があればあっという間に崩壊し，本当の意味でデジタルゴミと化します．すでにTerra上で構築されていたDApps群は移転を初めており，各L1チェーン上で争奪戦となっています．

こうやって数兆円規模の崩壊が起きても何事もなかったかのように再始動していくのが暗号資産の世界であり，被害者への補償はこれから考えなければなりませんが，精算は瞬時に完了して次へ向けて始動していきます．

今回の大規模なLUNA-UST崩壊は相場の下落が始まったきっかけに過ぎないと個人的には考えています．次に危ないのはNFT関連のプロジェクトで一番危険性が高いのはBAYCでしょうか．TVLが一気に蒸発したDefiはまさに試練の年になりそうです．どこまで下落が進んで底がどのあたりのレベルになるのかは誰にも正確に予測はできません．私はBitcoinが20000ドルを割り込むレベル，ETHが1400ドルレベルに下落することを想定して準備しています．こういった下落相場はプロジェクトの開発が一気に進むのでいまから色々調査を開始したところです．また自分の目指すべきweb3の方向性が見えてきました．今年以降どうなるかわかりませんが，粛々と未来を見据えて行動していこうと思います．